本書では世間に蔓延している誤ったものの捉え方、及びその原因について詳しく解説されています。統計的な事実に基づいており、その論点はいずれも説得力があります。

本能がもたらす思い込み

「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」では賢い人ほど思い込みに捉われやすいとし、それを10のカテゴリーに分類しています。
思い込みから開放されることで、人は癒しを与えられ幸せになれると言います。
本書はビル・ゲイツ氏やオバマ元アメリカ大統領から絶賛されており、オバマ氏に至っては「人類を前向きに進ませる希望の本」とまで言っています。
先ず、世界情勢に関する基本的事実について、13問の質問が投げかけられます。
大半の人の正解率は3分の1以下ですが、専門家や高学歴であっても結果は同じかそれ以下となります。
そして、興味深いことに、社会的な地位が高い人ほど正解率が低くなります。
社会的に地位の高い人は、人間の本能がもたらす思い込みに捉われやすい傾向があります。
自分の置かれた立場を肯定するために、不都合な事実に対して眼をつぶるからです。
それに対して本書では、世界の本当の姿を知るためには、教育や貧困などに目を向ける必要があると語ります。
環境やエネルギー、そして人口問題も人類が抱える深刻な課題です。
それらから目を背けている限りは、世界の本当の姿が分かりません。
たとえ高い地位にあったとしても、それでは人として生きる意味さえないとまで言われています。
人類が悲惨な結末を迎えないために

本書では人類が抱える課題について、統計学的データを交えながら詳しく解説されています。
いずれの課題も解決には困難が伴いますが、著者は決して諦めているわけではありません。
人類全体が課題をファクトとして正しく認識すれば、進むべき方向は自ずと明らかになると述べています。
それには、一人ひとりが思い込みから解き放たれることが重要で、正しく物事を見る習慣を身につけることだと主張されています。
著者ハンス・ロスリング氏の説明はいずれも的を得ており、面白くて分かりやすいのが特徴です。
彼の講演動画が何千万回も再生されているのも頷けます。
本書では複雑な数式などは一切登場せず、経済用語もGDP以外は出てきません。
誰が読んでも感覚的に分かるように書かれており、それが本書の魅力の一つにもなっています。
著者は人命にかかわる状況に何度も立たされており、データに基づく状況判断の大切さを身をもって感じています。
そして、その大切さを伝えることを、自分の使命と考えるようになりました。
世界が何処に向かっているのか、現実の姿を知らなければ混迷が深まるばかりです。
人類が悲惨な結末を迎えないためにも、著者の訴える方法論に耳を傾ける必要があります。
得られたデータを客観的に分析する

本書では人間の本能を、分析本能とネガティブ本能、直線本能と恐怖本能など10種類に分類しています。
それぞれが思い込みに関係しており、その結果として世の中の事実が歪んで理解されています。
この歪みを解決するには、それぞれの本能に対する抑止対策を施す必要があります。
データ分析の手法として当然のことも、本能による思い込みにより歪められることがあります。
最も代表的な事例として、温暖化問題が挙げられます。
経済合理性の見地に立てば、二酸化炭素排出と温暖化は関係ないことになります。
一方、人間の本能が持つ負の側面を理解することで、得られたデータを客観的に分析することが可能になります。
本書は分量があり書かれている内容も深刻ですが、文体自体は軽いので面白く読むことができます。
思い込みで物事を判断しないためには、随時、知識をアップデートする必要があります。
著者は先ず身の周りから、思い込みに毒された部分がないかチェックするよう促しています。
仕事であったり家庭であったり、様々な思い込みに流されていないか精査してみることです。
その中で疑問点が見つかれば、改善へ向けての再評価が行われることになります。
再評価に際しては、記録が重要なポイントになります。
記憶が曖昧なままでは、到底、ファクトにたどり着く事はできないからです。
無知であることの罪

本書は世間的なデマやフェイク情報から、自分の身を守るために役立ちます。
無知であることは、場合によっては悪意以上に残酷な事態を招くものだと述べられています。
今まで信じていた自分の知識を改めて確認する良い機会になる本です。