アマゾンの経営をあらゆる角度から分析する本書。
日本マイクロソフト元CEOであり、近年では書評サイト「HONZ」代表として活躍する成毛氏の、ビジネスの教科書となっています。
Amazonのビジネスを徹底分析

いまや誰もが知る大企業となったAmazon。
Amazonは当初、書籍のネット通販からスタートしました。
そこから書籍だけではなく日用品など様々なものを販売するように事業を拡大していきます。
そして、このネット販売をコア事業として資金を稼ぎ、やがて物流に革命を起こしていきます。
さらにテクノロジーにもどんどん投資を行い、クラウドサービスでも世界第1位のシェアを誇るようになりました。
その裏には、競合相手を容赦なくM&Aなどで倒していき、有能な人事を優遇し、いらない人材を切り捨てる、冷徹な組織戦略があったと言われています。
本書はこのようなAmazonのビジネスの全貌、その裏側にある事業戦略、組織のあり方をデータ等に基づき分析していきます。
特に本書で特徴的なのは、「Amazon Web Service」というクラウドサービス事業への言及です。
AWSと通称されるこのサービスは、ITの世界ではここ10年の間急速に発展し、現時点で世界1位のシェアを誇るドル箱事業に成長しています。
これまでAmazonのビジネスを語る解説書は多く出版されていますが、AWSをビジネスの観点から客観的に分析したものはほとんどありませんでした。
このAWSが、Amazonの世界戦略の中でどのような意味を持つのか、著者の成毛氏の分析には一読の価値があります。
Amazonのビジネス戦略のすごさがわかる

本書によれば、Amazonのビジネスで特徴的なものとして、「プライム会員」というものがあります。
これは、始めは年会費を安くしておいて、後から上げるというものなのですが、この手法も、実に巧妙に消費者心理を付いている、と考えることができます。この点に関する著者の分析も、大変興味深いものがあります。
さて、近年のAmazonの事業戦略が、すでにネットだけではなく実店舗経営や、ドローン事業、物流革命、といったハードの分野に及んできていることをご存知でしょうか。
例えば昨年、Amazonはアメリカ全土にチェーン展開する食品スーパの一つをM&Aにより買収しているのです。
これにより、会計はすでにネットで済ませ、店舗では商品を実際に手にとって持ち出すだけという、あらたな買い物の方法というものを、消費者に提供しています。
こうしたAmazonのビジネスモデルが、いかに革命的であるか、本書はくわしく解説しています。
ニュース記事を日々詳しくチェックしていないと見落としがちなAmazonの最新の事業戦略の数々も、本書のようにまとめて網羅的に眺めてみると、いかに多角的かつ効率的に利益を取りに行っているかがわかりやすくなるのではないでしょうか。
我々が学ぶべきこととは

さて、結局のところ、Amazonの事業をすみずみまで分析して、一体何がわかるのでしょう?あるいは、私たちは何を学ぶべきなのでしょうか。
本書は、Amazonの事業を細かく分析することで、この巨大企業の最先端の事業戦略を教えてくれています。
そしてその戦略が世界経済にどのような影響を及ぼすかも、分析してくれるでしょう。
しかし、私たちにとってそれは一体どのような意味があるのでしょうか。
一つの回答としては、それは私たちに対する暗黙の警鐘であるということです。
Amazonの様々なサービスは、日常にあまりにも溶け込みすぎて、もはやそれなしには生活が不便になってしまうような存在になっています。
そして私たちは、Amazonのサービスをお金を払って利用することに抵抗感を持つことなく、慣れてしまっています。
もちろん便利なことは良いことです。しかし知らない間に、私たちの生活を支えるサービスがAmazonに支配されていて、かつていくつもあったいろいろなサービスが淘汰されてしまったらどうでしょうか。
Amazonの意向ひとつで私たちの生活が左右されるような、まるでAmazonに支配されているかのような事態が起こる可能性は否定できないのです。
私たちはそうした現実に、いまどれだけ意識的になれているでしょうか。
Amazonのビジネスを学ぶことは、こうした私たちの社会を取り巻くリスクに気づくことにも繋がるのです。
まさにそれこそが、著者が私たちに訴えたかったことなのかも知れません。
Amazonを客観的に見ることの大切さ

本書は、Amazonを客観的に分析することによって、私たちの日常生活に自然と溶け込み、もはや不可欠な存在となっているAmazonという企業について、見直す機会を与えてくれるでしょう。
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