「シャーデンフロイデ」は、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中の脳科学者である中野信子氏による著作ということで興味深く読みました。
人の失敗を喜ぶ心理についてわかりやすく書かれている本です。
シャーデンフロイデとオキシトシン

本書のタイトルであるシャーデンフロイデは、人を引きずり下ろした時に発生する快感を意味する言葉だそうです。
成功者の失敗を糾弾して喜ぶ行動には、脳内物質であるオキシトシンが関わっていると言われています。
本来オキシトシンには互いの信頼を高める効果があり、人と人の愛着形成に欠かせません。
また、免疫力を高めるなど体にも良いこともわかっています。
私もオキシトシンについては聞いたことがあり、人間が幸福感を得るために必要な物質であるという認識がありました。
オキシトシンを増やす方法について書かれた本を読んだこともあるくらいです。
しかし、本書ではオキシトシンの意外な一面について語られています。
前述の通り、オキシトシンは人の失敗によって得られる幸福感であるシャーデンフロイデとも関わってくることから、同時に妬みの感情も高めてしまうというのです。
この衝撃の事実に、しばらく呆然としてしまいました。
オキシトシンには、副作用のような悪い一面もあったのです。
SNSでしばしば見られる炎上という現象もシャーデンフロイデによるものなのでしょう。
本書では、現代社会に蔓延する妬みの元凶であるシャーデンフロイデの正体について、様々な研究結果を提示しながらわかりやすく解説されています。
本に書かれている内容

第1章では、シャーデンフロイデの正体とオキシトシンの関係について書かれています。
それを踏まえて以降の章が展開していくのですが、第2章では正義感が引き起こす制裁がテーマです。
ここでは2011年の震災の時に広まった不謹慎を処罰する風潮が例として挙げられており、私も当時経験したことだったのでその仕組みが手に取るように理解できました。
第3章では集団を支配する倫理にスポットを当て、それが暴走することで世の中が不寛容になっていく様子が描かれています。
ミルグラム実験などから興味深い結果も出ており、これは科学的にも実証された事実であることがわかります。
第4章では愛と正義を理由に殺し合う人間について述べられており、集団リンチの裏側にある心理として内集団バイアスや外集団バイアスについての説明が加えられています。
絆で繋がった仲間たちが他者に対して非情になれるのはなぜなのか、その心理が具体例と共に解き明かされており、特にその傾向が顕著に見られる日本人の性質について深く考察されているのが印象的でした。
実際に読んだ感想

古来より農耕民族として生きてきた日本人は、協力なくして生活することができないため個よりも集団を大事にする気風があったと言われています。
家族や仲間と接することでオキシトシンが増え幸福度は高まりますが、一方でそれを守るために他者に対して懲罰を与えることになります。
その諸刃の剣のような危うさを見ていると、それを備える人間の成熟度が問われるようです。
震災以降、絆という言葉をよく耳にしました。
困った時に助け合うことは確かに必要ですが、絆という言葉で無理矢理一つにまとめ上げようとする風潮に嫌気が差したのも事実です。
実際、その時期は自分の欲望とは裏腹に息を潜めて清く正しく生きることを無理強いされているような感じがして辛かったのを覚えています。
今でもその雰囲気は残っていて、芸能人の不倫や不適切な行動をバッシングするのが当たり前になっているのは言うまでもありません。
この本では、団結力がありチームワークに優れている集団ほどいじめが発生しやすいと書かれています。
集団が大事にしている価値からはみ出す者は排除しても構わないという乱暴な考えに支配された世の中に辟易していたので、その原因がわかって少しホッとしました。
とは言っても、この状況をより良い方向に導いて行かなければならないのは、他でもない現代に生きる私たちです。
この本からそのために必要な理解とヒントを与えてもらうことができて良かったと思っています。
他人の足を引っ張らないために

人の間違いを指摘して優越感に浸っている時こそ、自分の中で暴走しているオキシトシンを自覚しなければならないと思います。
「シャーデンフロイデ」は集団の一員として盲目的に生きることを戒めてくれる本でした。
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